【解説】入社3年目に振り返るコミュニケーション力
投稿日:2022年9月27日 / 最終更新日:2024年8月20日
コミュニケーションができていないと、こんな問題が発生する
これは実際に、2022年4月1日に起こった出来事です。
入社3年目のAさん(男性)。
彼は通常業務とは他に、新入社員と年が近い先輩として、
若手リクルーターとして活動をしていました。
4月1日は、その新入社員が出社してくる日。
Aさんは、新入社員とのオリエンテーションの準備をしていました。
しかし、その日に事件が起きます。
新入社員のB子さん(女性)が、出社して15分でこう言い出したのです。
「大変申し訳ないのですが、私がイメージしていた会社と違ったので、辞めさせてください。」
Aさんが別室で、B子さんの話を詳しく聞いてみると、このように言われました。
- 東京の都会的なオフィスで働くことをイメージしていたのに、
片田舎のオフィス環境にがっかりしていた - 入社前に始まった、同僚に囲まれた寮生活が苦痛になっていた
- 自分が好まない環境で、これからずっと働いていいのかと疑問を持つようになった
彼女にしても、このタイミングでこのようなことを発言する意味を十分に理解していて、
悩みに悩んで決断をし、辞めるのであれば少しでも早い方がいいだろうとの判断からでした。
そしてAさんは、一緒に活動していた上司から呼び出され、こう言われました。
「彼女から何か聞いていたか? 彼女とどんなコミュニケーションを取っていたんだ?!」
この話を聞いて、あなたが思うことは色々あるでしょう。
- B子さんの行動は社会人としておかしい
- AさんはB子さんと、どんなコミュニケーション取っていたのだろう
- 上司がAさんを責めるのは違う
- 自分がB子さんだったらどうするだろう
人それぞれの想いがあり、価値観があるため、何が正しくて何が正しくないかを
判断することは難しいかもしれません。
ただ、確実に言えることがあるとしたら、
この話に出てきた人全員が、もっとコミュニケーションができていたら、
こういうカタチで問題が吹き出してくることはなかったでしょう。
コミュニケーションがうまい人は一握り
コミュニケーションとは、他人との関わり方
コミュニケーションとは、相手の認知や価値観など、こちらとの前提のズレを考慮した上で、
相手に合った表現方法によって、こちらの意志を伝え、受け取ってもらうことです。
相手にこちらの意志を伝え、相手に気づかせてたり、
どうするのがいいか自己決定をしてもらったりして、
次のステップへと相手の行動を変えていくチカラです。
つまり「コミュニケーション能力」は、人を動かすチカラとも言えます。
ドラッカーのコミュニケーションの4原則
コミュニケーションとは何かについて、もう少し補足していきます。
経営学者のピーター・ドラッカーの「コミュニケーション4原則」をご存知でしょうか?
1つずつご紹介します。
- コミュニケーションは知覚である
知覚とは、自分と相手との差をきちんと理解・把握し
相手に合ったコミュニケーションをすることです。
つまり、相手の立場に立つ必要があることを意味します。 - コミュニケーションは期待である
人は、自分が期待していないものを知覚できない生き物だとドラッカーは提唱しました。
相手の期待に反するようなことを伝えると、相手にうまく伝わりません。
まずは相手が、「今何を考え、何を求めているか?」を知ることです。
そのためには、相手に関心を持つことが求められます。 - コミュニケーションは要求である
コミュニケーションを取ることは、相手に何らかの要求があるはずです。
相手に何か変化を与えたいと思ったとき、それは相手の期待の範囲内で行われる必要があります。
相手の期待とは異なる場合は、まずは相手の期待を受け止め、その上で話し合う機会を持ち、自分の意見を聞いてもらうことになります。 - コミュニケーションは情報ではない
感情を含まない単なる事実のやりとり、情報収集はコミュニケーションではありません。
コミュニケーションは、相手と話したい、相手を理解したい、という気持ちがあれば成立します。
少しだけ、自分のことを振り返ってみてください。
上司とのコミュニケーション。
同僚とのコミュニケーション。
後輩とのコミュニケーション。
そして、あなたの上司は、同僚は、部下は、コミュニケーションができているでしょうか?
まわりもあなたも、コミュニケーションを学ぶ機会がなかった
世間では、人とよく話をしてその場を盛り上げることが上手な人を、
「コミュニケーション能力が高い」としてしまうことがよくあります。
でも、よくよく観察してみると…
- 自分のことばかり話す
- 自分が聞きたいことばかり質問する
- 相手の話を聞いていない
- 連絡はマメだけど、自分の都合(フォローや質問)ばかり
相手が気持ちよく話せるようなコミュニケーションができているでしょうか?
人は学習したことしかできません。
「これがコミュニケーション能力が高い人だよ」と教わってしまえば、
それが正しいものとして、同じように振る舞うことを目指すでしょう。
コミュニケーションについて正しく理解し、実行できている方は、残念ながらごくわずかなのです。
「私の気持ちはどうなるの?」
問題解決法では解決できない
会社内で問題が起こった場合、多くの会社はその原因を探し出します。
例えば、今回の問題の原因の1つとして、
「不安なことはないか、B子さんと事前にもっと話をすればよかったが、
それはできていなかった」という原因が突き止められます。
解決策としては、
「今後Aさんが、それを行うためにはどうすればいいか」と考えるでしょう。
一見、以上のプロセスは論理的で正しいように見えますが、
しかし“感情”という側面から見ると、致命的な欠点があるのです。
Aさんの視点から見ると、「自分自身が否定された」と考えてしまうからです。
もちろん、「Aさんが悪いのではなく、プロセスが悪かったのだ」と言って
Aさんを守ることもできますが、それでもやはりモチベーションがダウンしてしまいます。
自分自身を否定されたと感じると、それに対して反発する気持ちが出てきます。
「なんだよ、じゃあどうすればよかったんだよ。」
「私は悪くない。」
こうなってしまうと、解決策を素直に聞き入れたくないという気持ちも出てくるかもしれません。
責められたことばかりが記憶に残り、人間関係に疲れてしまうかもしれません。
実際にAさんも問題発覚直後に、上司からの
「彼女とどんなコミュニケーションを取っていたんだ?!」という発言は
自分が責められたように感じたそうです。
上司からしたら、責めていたわけではなくて、単なる情報収集のつもりだったかもしれません。
でも、Aさんがその言葉をどう受け取るかが、すべてなのです。
このような問題を少しでも解消するために、Aさんとのコミュニケーションが必要となるのです。
Aさんはどのように感じているか、Aさんが期待していることは何なのかを知覚し、
問題を再発させないようにしたいという要求を、
Aさんが受け入れる気持ちが育ってから、話し合いを進めるべきなのです。
コミュニケーションを知らないと対応を間違う
人間関係はストレスをもたらします。
私たちは、日々、もっとうまくやる練習をする必要があり、それを「学び」といいます。
問題を解決するための方法として正論があったとしても、人間には心があるため、
自分が気に入らないと思うようであれば、それを受け入れることができずに
学びがうまくいかないことがあります。
正しいコミュニケーションを知らないと対応を誤ってしまう
つまり間違った学びを続けてしまうのです。
人間関係に疲れると心理を学ぶ
よくあるのが、このような職場トラブルから人間関係に疲れてしまい
心理学を学んで何とかしようと考えることです。
あなたが今、日々笑顔で生きられない現実があるのだとしたら、
心理学を学び、日々繰り返している「思考のクセ」に気づくことは、有効です。
仕事が楽しいと思えないとき、仕事に対してとらわれている想いがあります。
「上司なら、こうあるべきだ。」
「言われたこと以上のことを求めるのは嫌だ。期待されるのは困る。」
「失望されると嫌われるかも…」
私たちは、自分が握りしめた思い込みに気づかずに、本当にそうなのかを疑うどころか、
自分の思い込み通りになっているかの「証拠固め」に繋がることばかりに
注目してしまいがちです。
同じ事実でも、あなたがどう捉えるか次第で、気持ちは変わってくるのです。
心理を学ぶだけでは人間関係の悩みは解消しない
しかし残念ながら、心理を学ぶだけでは人間関係の問題は解消できません。
心理学では心の扱い方を学ぶので、何か問題が起こった場合に、
自分の落ち込んだ気持ちへの対応、
立ち直るチカラ(レジリエンス)は上手くなるかもしれません。
しかし依然として、人間関係の問題は発生します。
あなたの悩みの原因が消えるわけではありません。
むしろ、心理学を学ぶと人間関係が悪化することもあります。
心理の主人公は「自分」、コミュニケーションの主人公は「相手」
心理学を学ぶと人間関係が悪化する理由、それは、心理学の主人公は「自分」
コミュニケーションの主人公は「相手」だからです。
心理学を学んだ人は、以下のようなことをやりがちです。
- 自分で何とかしようとする。(相手をよく見ていない)
- 心理学に当てはめて、相手の気持ちを想像する。(相手の気持ちを確認しない)
- 相手に変にアドバイスしようとする。(相手はそれを望んでいるのか?)
- 相手の心を、心理学のテクニックでコントロールしようとする。
心理学の知識やテクニックをどう活用するか、次第ではあるのですが、
そのような関係性では、相手とはうまくいきません。
相手の気持ちを尊重する必要があるのです。
対人関係を改善するのは、あくまでもコミュニケーションなのです。
コミュニケーションと心理を並行して学ぶ
卓越したコミュニケーションがもたらすもの
今回のことで、Aさんはどのような学びを得たのでしょうか?
時を同じく4月1日に、Aさんの部署に、新しい上司として部長Cさんが赴任してきました。
幸運なことに、部長Cさんは卓越したコミュニケーション能力の持ち主でした。
部長Cさんは状況報告を受けて、翌日の4月2日に
部署の雰囲気を知るための赴任直後の若手とのコミュニケーションとして
Aさんと話す機会を持ちました。
お互いの自己紹介と、ちょっとした雑談や部署の様子について話をしたあとで
部長Cさんは本題を切り出しました。
「昨日のB子さんのこと、報告を聞いたよ。でも僕は、A君自身が昨日のことをどう思ったか、
A君の気持ちを教えてもらえると嬉しい。」
「リクルート活動ではA君が新入社員から頼れる存在として、
頑張ってくれていたことも聞いている。
だからこそA君には、色々な想いがあるんじゃないかな。」
人間関係はコミュニケーションの結果
部長Cさんは、コミュニケーションは情報ではないことを知っていました。
なので、実際にAさんと話をして、彼の気持ちを確認しようとしました。
部長Cさんは、2つの要求を持っていました。
- Aさんに、B子さんとどのようなコミュニケーションを
取るべきだったかを考えてもらいたい。 - この件を事例に、どういうコミュニケーションを取るべきだったかを
職場全体で話し合い、再発防止策を検討したい
これらの要求を行うために、まずはAさんの気持ち、期待を確認する必要があったのです。
ここを確認せずに、再発防止について話し合いを進めてしまえば
Aさんは責められているように感じてしまうでしょう。
繰り返しになりますが、コミュニケーションとは、他人との関わり方なのです。
コミュニケーションの土台は心の安定
Aさんは部長Cさんに、自分の気持ちを正直に話しました。
- 自分は頑張って、新入社員を盛り上げようと気をつかっていた
- 何か困ったことがあれば、いつでも相談に乗るとも伝えていた
- B子さんの発言には、ただ、びっくりした
- あのタイミングでのB子さんの発言は、正直、ないと思った
- 上司に「事前に気づけなかったのか」と言われて、理不尽だと感じた
- 頑張っていたのに悔しい
部長Cさんは頷きながら、彼が言った言葉を繰り返して話しました。
「そうだよな。頑張っていたからこそ、悔しいよな。」
そして、Aさんの話を一通り聞いて、Aさんの気持ちに寄り添った後で
少し時間をおいてからこう聞いたのです。
「昨日のB子さんは、どんな様子に見えた? どんな顔をしていた?」
Aさんが、昨日のB子さんのことを思い返してみると
- そういえば、落ち着かない感じだったかも
- 今にも泣きそうな顔をしていた
- 声がちょっと裏返っていた
このとき、Aさんは初めて、「B子さんは非常識だ」という思いを脇において
彼女のことを考えたそうです。
「彼女が寮に入ってからは、連絡は業務メールだけだったな…」
「近くの寮なのだし、顔を見に行っていたら違っていたかも…」
「そもそも、彼女ときちんとコミュニケーションが取れていたのかな…」
そうです。
まず整えるべきなのは「心の安定」。
これによって、コミュニケーションの質は大きく変わります。
主人公が異なる心理とコミュニケーションを並行して学ぶ
この面談のあと、部長Cさんの要求通り、職場全体で、「B子さんの件に関する振り返り」と、
「部下や同僚と、職場でどういうコミュニケーションを行うことが理想なのか」について、
話し合いが行われたそうです。
そして、部長Cさんからのアドバイスもあり、AさんはB子さんにメールを送りました
――――――――――
あのタイミングで、B子さんに辞めたいと言わせてしまったこと、ごめんなさい。
きっと、あの場で発言することは、とても勇気が必要で、
おそらく、B子さんの方が傷ついてしまったのではないでしょうか。
今は、気持ちは落ち着いてきましたか?……
――――――――――
Aさんは、部長Cさんとのコミュニケーションで、自分の気持ちを話すことができました。
話を聞いてもらい、理解してもらえたという安心感で、
自分の心を安定させることができました。
それから、自分自身や周りを客観的に見る視点が生まれてきました。
その上でB子さんのことも、「もっと彼女のこと観察し、話しかけて、
話を聞いてあげればよかったのかな」と感じたそうです。
心を安定させることは、心が受け入れられる選択肢を増やすことに繋がります。
他者との関係性を築くにあたり、「心の安定」はとても重要です。
心理学では、この「心を安定させる方法」を学びます。
「心の安定」次第で、同じ事実をどう受け取るかが変わってきます。
別の言い方をすると、「悩む」か「悩まない」かは、自分で決められるのです。
人間関係を改善させたいのなら、
コミュニケーションを学ぶのと並行して心理学を学ぶことは、大きな相乗効果をもたらします。
人間関係を改善するのは、数年、数十年かかる
人間関係に悩んだとき、その環境に身を置くのをやめてしまうというのも、1つの選択肢です。
ただ、「本当のコミュニケーションができれば、一瞬で世界の見え方は変わる」ということも
覚えておいてください。
今回Aさんは、コミュニケーションについて大きな学びを得ましたが、
この学びから、彼がすぐにコミュニケーションが上達するかというと、そうではありません。
コミュニケーション能力は、実践によって磨かれます。
上達するには、繰り返しの学びが必要なのです。
あなたができるだけ最短でコミュニケーション能力を身につけたいのであれば、
次のことを心掛けましょう。
- コミュニケーションを実践する
- お手本となるような、コミュニケーションができる人を見つける
ただ、「本当にコミュニケーションができる人」はごくわずかです。
職場でメンターとなる人を見つけるのは、難しいかもしれません。
もし、見つけられたのなら、あなたはとてもラッキーです。
なので、職場の上司に対し、コミュニケーションができるだろうと期待するのはやめてください。
同僚も部下も、コミュニケーションができません。
職場が変われば、そのときの人間関係からは開放されるかもしれませんが、
コミュニケーションができる人はごくわずかなので、また次の場所で、
人間関係の問題は発生します。
もし今の職場では、その機会に恵まれないのだとしたら、
コミュニケーション講座や、そのような環境のコミュニティなど、
新たな場所を探すとよいでしょう。
あなたが職場でうまくコミュニケーションが取れていないのなら、
「本当のコミュニケーションとは何か」に気づいたあなたから、実践していってください。
そしてぜひ、コミュニケーションと合わせて、心理学も学んでみてください。