【解説】コミュニケーション能力を鍛えるには?
投稿日:2021年12月17日 / 最終更新日:2024年9月5日
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コミュニケーション能力を鍛えるには、どうすればいいでしょう?
コーチングやカウンセリングを学んだのに、コミュニケーションがうまくいかない。
こんな風に悩んでいませんか?
このようなとき、テクニックと内面のレベルが合っていない
「ミスマッチ」が起きている可能性があります。
どんな能力を鍛えるにしても、レベルに合わせたトレーニングが必要です。
例えば、水泳初心者にバタフライを教えることはしませんね。
身体の浮かせ方、息継ぎのやり方などから教えるはずです。
コミュニケーションを鍛える場合にも同じです。
ここでは、どうすればコミュニケーション能力を鍛えて、
上手なコミュニケーションをとることができるようになるのかについてお伝えします。
『思考の言葉』と『コミュニケーションの言葉』
まずはコミュニケーション能力のレベルを確認することからはじめましょう。
例えば、あなたに恋人がいるとしましょう。
そして、ある日のデート中、「他に好きな人ができちゃった! 別れた方がいいよね?」と告げられました。
あなたは、どう対応しますか?
恋人:「他に好きな人ができちゃった! 別れた方がいいよね?」
あなたならどう答えますか?
- 「いや!絶対に別れない!」(即答)
- 「えっ……」(絶句)
- 「ひどい。よくそんなことが言えるね」(怒り)
- 「私に悪い所があったんだ…」(涙)
- 「ビックリした。詳しく教えて……」
- 「教えてくれてありがとう。あなたもつらかったね」
これらのうち、①~④のように答える人は、コミュニケーションがまだ機能していない段階です。
①のように即答するのは、相手の言葉に反射的に反応してしまっています。
②は混乱して思考停止してしまっています。
③は怒りの感情をぶつけて相手を責めています。
④は逆に怒りの感情が自分に向いて自分を責めています。
⑤の答えをする人は、冷静に受け止めることができていますが、まだ十分とはいえません。
⑥の答えをする人は、自分の感情を抑えて、相手をいたわっています。
少し理想的すぎるかもしれませんが、⑥のような受け答えが模範解答です。
では、自分の感情を無視して、いつも⑥のような答え方をすれば、コミュニケーションはうまくいくでしょうか。
答えはNOです。①~④の段階にいる人が、形だけ⑥を真似してもうまくいきません。
それどころか、無理を続ければ心が病気になってしまいます。
「話し方」や「伝え方」は外側のコミュニケーションです。
そして、外側のコミュニケーションだけをいくら鍛えても、コミュニケーションは上手になりません。
大切なのは、言葉になる前の、内面を育てること。
つまり、内面に働きかける『思考の言葉』を鍛錬することが、
上手なコミュニケーションの鍛え方なのです。
思考の言葉とは?
誰もが心の中では独り言を使いますよね。
例えば、レストランで待たされたら……
「まだかしら……」
「オーダーを忘れてるのかな?」
「忙しいのかな?」
このような、心の中の独り言を内言(ないげん)と呼びます。
内言とは、物事を考えたり、頭の中を整理したりするための道具として
用いられる言葉です。これが『思考の言葉』です。
逆に私たちがふだんコミュニケーションの道具として使っている
話し言葉を外言(がいげん)と呼びます。
これが『コミュニケーションの言葉』です。
内言と外言には密接な関係があります。
ここでは、どのように内言と外言が関わっているのかを見ていきましょう。
例えば、あなたが上司に注意されたとします。
上司:「何度、同じこと言わせるんだ!」
そのときの内言のパターンを考えてみましょう。
パターン | 内言 | 外言 |
① | 「お前もそうだろう」 | 怒りをこらえて「スミマセン」 |
② | 「うざい、かかわりたくない」 | その場しのぎで「スミマセン」 |
③ | 「またやってしまった」 | 落ち込んで「スミマセン」 |
④ | 「迷惑をかけてしまった」 | 素直に「スミマセン」 |
⑤ | 「次は期待に応えるぞ」 | 元気に「スミマセン」 |
どのパターンでも、コミュニケーションの言葉である外言は同じです。
しかし、これだけの内言の違いが出てくるのです。
さて、コミュニケーション能力を鍛える上で、内言の重要性をお伝えしました。
その内言は、いつ習得するのでしょうか?
もちろん幼少時に私たちは、大人や友達との関係の中で内言を獲得します。
子どもの言語の発達は、一人だけで自然に進むものではありません。
社会的環境、親子関係、兄弟姉妹や友人との関係の中、他者との相互作用、および大人からの教育を受けることによって、
実用的な思考能力やコミュニケーション能力の育成されていくのです。
※子どもの言語発達について、詳しくはロシア(旧ソビエト連邦)の心理学者、ヴィゴツキー.L.S.の研究を参照してください。
『思考の言葉』がコミュニケーション能力に大きくかかわる
内言は「思考する能力」です。
そして、一般的に外から刺激を受けると、私たちは独自の内言を挟み、外言(コミュニケーション)することが通常です。
外的な刺激 | 思考の道具「内言」 | コミュニケーションの道具「外言」 |
友人から「冗談が通じない」と言われた | 「あなたもね」 | 「お互い様でしょ!」 |
「私のことよく知ってる!」 | 「そうなのよ!」 | |
「しょうがない」 | 「昔から!」 |
上の表を見て気づかれた方もいらっしゃるかもしれません。
そうです。コミュニケーション能力を向上させるには、まず内言の力を養うことが大切なのです。
まず息継ぎができなければ、バタフライなどの高度な泳法を身につけられないように、
内言(思考の道具)が整ってはじめて、外言(コミュニケーションの道具)がうまく使えるようになるのです。
内言(思考)の傾向によって、外言(コミュニケーション)が大きく変わります。
- 否定的な思考の方は、否定的なコミュニケーションをします。
- ネガティブな思考の方は、ネガティブなコミュニケーションをします。
- 他者責任の思考の方は、他責のコミュニケーションをします。
- 自己責任の思考の方は、自責のコミュニケーションをします。
- 消極的な思考の方は、慎重なコミュニケーションをします。
- 積極的な思考の方は、チャレンジングなコミュニケーションをします。
- 肯定的な思考の方は、前向きなコミュニケーションをします。
- 楽観的な思考の方は、能天気なコミュニケーションをします。
コロナ禍で、行動が制限された場合を例にみてみましょう。
外的な刺激 | 思考の傾向「内言」 | コミュニケーションの道具「外言」 |
コロナ禍で、緊急事態宣言が発令 | 否定的な思考の方 | 「コロナは失うものが多いね」 |
肯定的な思考の方 | 「コロナが新しい生き方を教えてくれた」 | |
ネガティブ思考の方 | 「コロナが落ち着くまでダメだな」 | |
ポジティブ思考の方 | 「コロナでチャンスもあるよね」 | |
他者責任の思考の方 | 「コロナのせいで人生めちゃくちゃ!」 | |
自己責任の思考の方 | 「コロナのおかげで成長できた!」 | |
消極的な方 | 「コロナだから動かない方がいい」 | |
積極的な方 | 「コロナだから動いた方がいい!」 | |
成長志向の方 | 「200年に一度のチャンスだ!」 | |
楽観的な思考の方 | 「流れのままだよ!」 | |
成功者的な思考の方 | 「成長できる出来事しか起こらない!」 |
このように思考の傾向(内言)によってコミュニケーションの道具である外言が変わっていきます。
内言は、私たちが生まれ育ってきた環境で学習してきた「能力」です。
クセです。偏りです。あるときは長所であり、あるときは短所にもなります。
そしてそれは、あなたの「個性」です。
だから、長所の部分を尊重して、短所になる部分を改善していく取り組みが必要です。
コミュニケーション能力を向上させるには、思考(内言)力を鍛えることが重要なのです。
思考力を鍛えることによって、コミュニケーション能力を大幅に向上させることができるのです。
『思考の言葉』の効果
思考(内言)力を鍛えることによって、具体的にどのようなコミュニケーション能力が改善できるのでしょうか?
最も重要なことを2つお示しします。
負の感情のコントロールができるようになります。
対人関係において避けられない「怒り」。
人間関係の中で生きる私たちは、「怒り」から逃げることはできません。
誰でも自分の期待以下のことが起きれば、「怒り」などの負の感情の心が占領されます。
そのときは、内言を使って「怒り」を静めることが可能です。
負の思考のスパイラルから脱することができるようになります。
例えば、何かで失敗したとき、「私ってダメだなぁ」「価値がないなぁ」
「能力が足りないなぁ」「将来に希望が持てない」などとネガティブな考えの中に埋もれそうになったりします。
そんなときは、意図的に「何を学んでいるのか?」
「人生は誰もがビギナー! 上手くいかないことが当たり前、過去は未来のための練習だ!」
と自分の心に声をかければいいのです。
負のスパイラルに入ったら、未来が広がるような内言を自らにかけるのです。
私たちは、すべてが未熟の世界で生きています。
完璧なものなど存在しないと思います。
※もしかすると、神様は完ぺきなのかもしれません。
「すべては未熟。残りがあるとすればゆるし」なのです。
『思考の言葉』、内言を鍛えるためには?
内言は、私たちが生まれ育ってきた環境で学習してきた「能力」です。
クセです。偏りです。あるときは長所であり、あるときは短所にもなります。
そしてそれは、あなたの「個性」です。
だから、長所の部分を尊重して、短所になる部分を改善していく取り組みが必要です。
内言を改善していく、主なトレーニング方法です。
コミュニケーション能力の高い人を真似る。
これは「モデリング」と呼ばれる学習法です。
生産的なやり方で、短時間で内言が改善されていくでしょう。
過去のコミュニケーションパターンを振り返り、反省しながら改善する。
この方法はお勧めしません。
なぜならば、過去は未来のための練習なので、特別に振り返る必要はないのです。
並行してコミュニケーションテクニックを学ぶ。
「聞き方」「話し方」「伝え方」「プレゼンテーション」「コーチング」「カウンセリング」……。
様々な分野のコミュニケーションテクニックがあります。
ただし、このようなテクニックだけを学んでも、相手の心に届く言葉を使うことはできません。
どうか内言を鍛えるトレーニングを並行して行ってください。
コミュニケーションの師から学んだこと
私たちは、2006年に日本ではじめての「コミュニケーション専門スクール」を立ち上げました。
今でこそコミュニケーショントレーナー™をしていますが、私はコミュニケーションが全くできませんでした。
できないレベルを超えて、自分勝手に一人で生きていたような感覚でした。
もちろん、家族や仲間に支えられていたのですが、そのようなことを考えたことがありませんでした。
要するに、自己中心的で友達がいない状態。
友達といえば、お金で繋がっているような状態でした。
でも、だからこそコミュニケーションの重要性に気づけて、コミュニケーションの先生になれたのかもしれません。
コミュニケーションの師との出会い。
私にはコミュニケーションの師がたくさんいます。
その中で、技術的なテクニックを学んだのは3人です。
そのうちの1人が、私に最初の大きな変化と学びをもたらしてくれました。
そのときのことを今でも鮮明に覚えています。
1998年頃、はじめて2泊3日のコミュニケーション研修に参加したとき、
あまりにも身勝手で、仲間を蔑ろにしていた自分が情けなくて、涙が止めどなく溢れてきました。
そのときでした。
「この人のようになりたい!」と思ったのです。
私:「先生のようになるには、どれくらいかかりますか?」
師:「最低でも10年はかかるでしょうね……」
私:「ありがとうございます」 内言:「そんなかかるの? 俺は3年で行けるかな……」
私のこの考えは甘かったのです。
10年が経過しても、師匠のようにはなれませんでした。
一所懸命に真似したけれど……
そのときも悔し涙が出ました。
そして、しばらくしてコミュニケーションの極意を掴めたような気がします。
もしかして、気がするだけかもしれませんが……(笑)
まとめ
コミュニケーション能力を鍛えるには、テクニックの前に、まず自分の『心』を鍛えることが重要です。
なぜなら、内言(思考)、感情、情動、衝動、イメージ、欲望、直感、感覚、このような心理機能は心で起こるからです。
ですから、まずは自分自身と向き合い、自分の心を統制できるようになることが、
コミュニケーション能力を向上させる唯一の方法なのです。